中国企画記事 特選
2007年1月10日記

「軟実力」重視の国家戦略図る中国
「大国崛起」ブームで着々
孔子学院、少林寺など急先鋒に
映画、観光でも文化影響力拡大


 中国中央テレビ(CCTV)が昨年十一月に連続十二回で放送したドキュメンタリー番組「大国の台頭(大国崛起)」は中国内で流行語となり、大反響を巻き起こした。過去五百年間に出現した九つの大国の興亡盛衰を従来より客観的に紹介、大国の制度や国民の素質、ソフト・パワー(軟実力)が永続発展の鍵となるとして、台頭しようとする中国の歴史的教訓にしようとしたものだ。党中央政治局が集団学習会で行った近現代世界史の客観的視点をもとに制作された同番組を通し、中国独自の文化や伝統を最大限に活用する「軟実力」を再重視し始めた中国政府の国家戦略が見えてくる。(深川耕治、07年1月10日記)


 歴史ドキュメンタリー番組「大国の台頭」(写真)は中国中央テレビ2(経済チャンネル)で昨年十一月十三日から二十四日まで十二回連続(各回五十五分)でゴールデンタイムに放送された。

 同番組は過去五百年間に台頭した九つの大国(ポルトガル、スペイン、オランダ、英国、フランス、ドイツ、日本、ロシア、米国)の興亡盛衰史を時系列的に客観的視点から描出。とくに米露英三国の世界史での地位と影響力にスポットを当てた。中国共産党が一貫して支持するマルクス・レーニン主義による唯物史観での伝統的解釈ではなく、資本主義制度にある競争力と権力バランス、健全な社会システム(所得の公正分配)、憲政法治主義の尊重を評価しつつ、ドイツ、ロシア、日本の興隆と衰退が制度確立時の欠陥にあるとして今後の中国現代化の教訓にすべきとの結論を出している。

 とくに大国を永続維持するためには新たな制度創建、全民教育による国民の素質向上、国力に必要なソフト・パワー(中国語訳は軟実力)育成が最重要と強調し、「文明の衝突」論を提示したサミュエル・ハンチントン氏に対して批判的立場をとる米国のリベラル派国際政治学者、ジョセフ・ナイ・ハーバード大学特別功労教授(クリントン政権時の国防次官補)を番組に登場させ、同氏が提唱するソフト・パワー(その国の文化や政治的価値観、政策の魅力に対する支持や共感を得ることで国際社会からの信頼や発言力を勝ち取る力)がハード・パワー(軍事力や埋蔵資源など)と好対照に重要であることを力説している。

 同番組のチーフディレクターである任学安・中国中央テレビ2(経済チャンネル)副編成局長(写真)は「二〇〇三年十一月末、出勤途中にラジオで『十五世紀以降の世界主要国家の発展歴史』をテーマに中央政治局集団学習会が行われていることを聴き、これをヒントに九つの大国の興亡盛衰を北京大学歴史系の教授陣らと協力して制作するようになった」と話している。

 実際、党中央政治局は〇三年十一月二十四日、集団学習会を開き、十五世紀以来の主要国家の歴史を考察するため斉世栄首都師範大学教授や銭乗旦南京大学教授らが講義。同学習会で胡錦濤国家主席は「中国は後発の大国。刻々と変化する国際環境の中で主要国の成功失敗の歴史経験を学習することは中華民族の偉大な復興実現に必ず有益だ」と強調した。四十〜五十日間隔で開かれる集団学習会では中央党校、中国社会科学院、軍事科学院、中国人民大学の研究機関などから専門家を招いて党幹部が受講する形で行われれており、同番組の編成内容も基本的に党の方針に沿った内容といえる。

 同番組は一九八八年、中国中央テレビが制作放映して翌年の天安門事件に大きな影響を与えたとされる歴史ドキュメンタリー番組「河殤(かしょう)」、〇三年に放映され、近代史の偵察を覆した同テレビ制作の「共和に向かう」と同様、党史を正当とする従来の史観と違う新鮮さが既存の学校教育で学べなかった内容として視聴者に高い評価を得た。

 これまで中国政府は第三世界を植民地支配して資源と経済収奪を繰り返す先進国を非難する一方、資本主義国家の比較的整備された制度や法治、人権を尊重する伝統をほとんど無視するスタンスだった。しかし、アフリカ、中近東、中南米に着々と資源確保を進める中国こそ「新植民地主義」と批判されるほど、もはや発展途上国ではなくなり、大国の長所を冷静に評価する客観的歴史観が必要な時期に来たともいえる。

 欧米で中国脅威論、中国崩壊論などが噴出し、それを火消しするために鄭必堅中国改革開放フォーラム理事長が提唱する「中国平和台頭論」や同番組が同時期に露出度を高めていることに「中国共産党の歴史観が変化したと過度の拡大解釈はすべきでない」(中国紙「中国青年報」付属紙「氷点週刊」停刊処分の発端となった歴史論文を書いた袁偉時中山大学哲学系教授=香港誌「亜洲週刊」掲載)との手厳しい指摘もある。

 注目すべきは、同番組を通し、中国独自の文化や伝統を最大限に活用する「軟実力」を重視し、中国政府が国家戦略として組み込み始めていることだ。その急先鋒となっているのが、中国語学習熱を世界的に広げる「孔子学院」の欧米や第三世界での設立、少林寺の欧米への進出、中国内の観光名所(敦煌、青蔵鉄道など)を舞台にした欧米との合作映画制作、アニメ振興政策などだ。

 孔子学院は儒教を布教するのではなく、孔子の名を借りて中国語学習を外国人に啓蒙する中国語学院で、韓国、日本、欧米、アフリカなど三十七の国・地域八十校で開学し、中国の伝統文化も教えている。少林拳発祥の地として知られる河南省嵩山の少林寺は仏教寺院でありながら少林拳の普及、仏教の紹介を行うために九五年、ニューヨークに寺を建立して弟子は四百人。演武イベントなど様々なサイドビジネスを展開し、米国内にはヒューストンやロサンゼルスなどに寺や分館が設立されている。〇一年にはベルリンにもドイツ少林寺として寺を建立、欧米での文化浸透を目指している。

 また、中国政府は昨年七月、手厚い財政支援や厳しい放送規制をテコにアニメ大国である日本など外国企業の下請けから脱して今後五〜十年で同国を世界に通用する「アニメ大国」にすると宣言した。中国国家ラジオ・映画・テレビ総局は国産アニメを育成するために二〇〇四年以降、海外アニメの放送枠を制限。テレビアニメの放送枠は時間割で国内作品を六割以上、作品数ベースで五割以上と規定した。これは日本アニメの締め出しに等しく、〇三年に輸入された海外アニメは「キャプテン翼」など二十作品あったが、〇六年には「テニスの王子様」一作のみとなっている。

 三億人超の子供を抱える中国国内市場はキャラクターグッズなど関連商品で巨額の利益を得られる“打ち出の小槌”。市場規模を現在の五千億円から日本と同等の二兆円規模に拡大する方針だ。映画界においても、国産映画の海外興行収入は〇六年に十九億一千万元(約二百八十八億円)に達し、中国政府は国産映画の海外進出を加速させ、文化面で国際影響力を拡大させようと意欲満々だ。

 中国の軟実力を図る「文化輸出」効果は二十一世紀の大国を目指す国家戦略の中で巧妙かつ着実に拡大し、大国としての自信を取り戻しつつ日本の軟実力をしのぐ無形資産の蓄積、浸透を世界的に進めている。