中国メディア批評
2004年3月6日記

台湾:党派性を鮮明にしすぎるメディア/総統選挙では新聞もテレビも中立な報道なし

◆信憑性薄い世論調査
 二十日の総統選挙を控え、台湾は各メディアの報道合戦が熱い。
 この時期、台北で各陣営の取材に行く際、困り果てるのがタクシー利用。四年前の総統選では、タクシーも支持する各陣営の旗を立て、だれを支持しているか、はっきり分かり、運転手との会話は対立候補の批判さえすれば、問題なかった。
 しかし、今回は、どのタクシーも旗を立てていない。「お前、二番(投票番号二番の野党側の連戦総統候補)支持か」とわざわざ、敵対陣営の旗を取り出し、同意を促す運転手。「いや、陳水扁総統の演説を取材した帰りだ」と波風の立たない答えをすると、今度は両陣営の暴露記事報道ばかり展開する台湾紙「蘋果(りんご)日報」の記事を持ち出し、「これを見ろ。連戦は自分の妻を殴っているひどいやつだ」と感情的な批判を繰り返す。
 そういえば、蘋果日報は、呉淑珍・陳総統夫人が多額の株式投資を秘密裏に行って総統選の資金稼ぎをしている、との報道もしており、二回目の各総統候補のテレビ討論では陳総統がその事実関係を一部謝罪したほどだ。
 新参者の蘋果日報の場合、どちらかと言えば、国民党寄りで、両陣営の暴露合戦をエスカレートさせており、むしろ、一般大衆に対して、大きな政治不信を植え付けるマイナス効果が広がっている。
 台湾各紙を見ると、党派性が色濃く、中立紙は一紙として存在しない。二大有力紙の連合報と中国時報は野党・国民党寄りで、自由時報は李登輝前総統が精神的指導を行っている台湾団結連盟寄り、台湾日報は民進党寄りが鮮明だ。
 総統選の各候補支持率世論調査は各紙が定期的に行っているが、党派性が色濃いために自紙が支援している候補に有利な支持率調査結果を平気で発表しており、先回の総統選では、開票結果と各紙の支持率調査結果の落差は激しく、信憑(しんぴょう)性が薄いことがはっきりしている。
 今回の総統選でも、各紙の世論調査は党派性があることを前提とした「フィルター」を通して参考にすべきで、どこまで接戦なのか、開票してみなければ、まったく不透明な状態だ。
◆開票速報番組も混乱
 党派性が鮮明過ぎるのは台湾のテレビ各局も同じ。今年就職したばかりの大卒者(25)は「ぼくらが幼少期は台湾の地上波テレビ局が中視、華視、台視の三局しかなく、すべて国民党系で中国語の言語政策のために会話はすべて中国語だけだった。台湾には日本のNHKのような公共放送はない」と話す。
 台湾ではテレビメディアは当初、国民党系だけが幅を利かせ、本省人(戦前から台湾に住んでいる人々)が使う台湾語の使用を禁止。その後、民進党系の民視が開局し、台湾語の放送が民視では主流となった。特に中高年が見るお茶の間番組や時代劇などは台湾語放送が多い。
 地上波だけでなく、有線テレビ局も同様で、中立系の東森電視台(ETTV)や年代電視台、国民党寄りのTVBSや中天、民進党寄りの三立など多種多様だ。台湾の各テレビ局は党派性が鮮明なために総統選の開票速報がいつも混乱する。自局が推す候補に不利な開票数字は止まったままとなり、結局、中央選挙管理委員会が発表する開票速報しか正確な情報は入らない。
◆注目集める客家語局
 選挙終盤に来て、注目を集めているのが台湾初の客家(はっか)語のテレビ局「客家電視台」。民進党政権となって行政院(内閣)内に客家委員会を新設した陳総統は客家人の葉菊蘭氏を客家委員会主任委員に抜てきし、客家語のテレビ局開設を指示し、一昨年、開局した。
 台湾内には客家人が約四百万人いるが、母語の客家語を使える者が減ってきている。今回の総統選での二回にわたる総統候補同士のテレビ討論では、客家電視台で客家語の同時通訳も初めて実践され、客家人の人々には非常に高い評価を得ているという。台湾では族群(エスニックグループ)問題が横たわり、これを和合させるには専門テレビ局の手腕が問われそうだ。
(台北で・深川耕治=2004年3月6日記)