深川耕治=2008年4月1日記

中国メディア批評 独自コラム



 連載 変わりゆく香港「一国二制度」10年の実験
 激戦・台湾総統選2004
 ルポ コピー天国・中国



立法委選・総統選での国民党大勝で、懸念されるメディアの“一党独裁化”

◆国民党に大きな変化

 台湾総統選挙(三月二十二日投開票)を現地取材したが、四年前、八年前の選挙に比べて国民党が各地域で開く「造勢会」(決起集会)が民進党の手法に似てきたことが際だった変化だった。

 台湾南部・屏東で行われた国民党の造勢会。馬英九氏が登場すると、壇上では花火が打ち上げられ、紙吹雪が舞う(写真右=深川耕治撮影)

 「司会の女性は元々は民進党支持者。だから場の盛り上げ方が民進党そっくりと思われるはずですよ」。二十年前に高雄で入党した男性(44)は、顔写真付きクレジットカードそっくりの中国国民党員証明カードを見せながら、国民党が八年前の大敗以来、中間層へのイメージ戦略を重視した選挙手法から造勢会の盛り上げ方に至るまで大きく変わったことを説明してくれた。

 野党に下野するまでの国民党の造勢会は豊富な党資金を投入した金権選挙のイメージが付きまとい、司会進行や場の盛り上げ方が融通のきかない大陸的な雰囲気だった。本省人(戦前から台湾に住んでいる人や子孫)が演説やパフォーマンスで急速に雰囲気を盛り上げる民進党の手法とは程遠かったが、すっかり改善されたのだ(写真左=深川耕治撮影)

 与野党に分かれた無許可の地下ラジオ局が入り乱れる台湾中南部では、特に国民党系の地下ラジオ局は、馬氏の米国グリーンカード取得疑惑や家族についてのスキャンダルなど政策論議とは懸け離れた部分で民進党側が中間層を揺り動かすいつもの選挙戦になると予測。それに騙(だま)されないようリスナーに事前警告し、かなり効果を上げていたという。

 選挙前日、馬氏が記者会見で、自分が最後に登場する国民党のテレビCMを見ながら(写真=深川耕治撮影)「国民党は変わる。台湾を改造する」と真剣に訴える姿からも以前の「黒金政治(マフィア絡みの金権腐敗政治)」とは違う清新なイメージを前面に打ち出し、経済再生に懸ける思いが伝わってきた。政権樹立後、側近らが不正を働かないかどうかは未知数だが、「今後、未来永劫、野党には下らない」(国民党関係者)との思いは八年間の野党生活での屈辱が底辺にある。

◆民進党寄り一紙のみ

 台湾のメディアは圧倒的に国民党系が多い。八年ぶりの政権交代でメディア界も一党独裁ならぬ「多強一弱」が顕在化するのではないかとの懸念が広がっている。

 国民党は一月の立法委員(国会議員・定数一一三)選挙で全議席の三分の二を超える八十一議席を獲得して圧勝し、総統選でも民進党の謝長廷・蘇貞昌ペアに約二百二十一万票差をつけて大勝。五月二十日、馬氏が総統に就任すれば、安定与党となる国民党は重要法案をスムーズに可決成立させることできる。

 総統選最終盤、高雄市の国民党選挙支部を訪れた香港民主派視察団約三百人は「馬英九氏が総統になれば、一党独裁に逆戻りする。与野党の権力バランスが崩れ、野党の弱体化で国民党の暴走を止められなくなるのではないか」(香港民主派政党「前線」の劉慧卿立法会議員=写真左から3人目=深川耕治撮影)と国民党関係者に厳しい質問を突き付けていた。

 メディアでもそうだ。国民党系は大手有力紙では連合報と中国時報。台湾本土系で民進党寄りなのは自由時報のみだ。香港資本の蘋果(りんご)日報もどちらかといえば国民党寄りだ。選挙当日付の蘋果日報は香港版一面トップは「99%、馬英九当選」の見出しが躍ったが、台湾版の見出しは「選挙決戦」で公平さを装っていても、見比べると滑稽ですらあった。

 地上波テレビでは民進党系は「民間全民電視(民視)」(FTV)のみで、「中華電視」(CTS)、「中国電視」、「台湾電視」(TTV)などはすべて国民党系。有線放送の東森新聞(EETV)、TVBSも中国大陸資本の入った国民党系だ。

 総統選の開票速報で唯一、民進党系である民視が各地域の開票数を表示する際、雲林県で七千票と表示していたのが突然二十万票と誤って表示され、他の国民党系テレビは繰り返しその画像を誤報疑惑として流し続けていた。民進党が勝った四年前、八年前の総統選では国民党系メディアが開票速報で勇み足をして批判されていたが、そこは自らを棚に上げての意趣返しである。

◆中立的報道は可能か

 馬氏が総統に就任すれば、立法院(国会)で三分の二以上を占める安定多数の国民党政権が復活する。民進党側は権力バランスが大きく崩れると危機感を強める一方、「民主的になった台湾では、政権が腐敗したり暴走すればすぐに有権者に分かってしまう時代なので、野党の監視があれば大丈夫」との声も聞かれる。

 だが、これほど国民党系メディアが多い台湾では、民進党系メディアがバッシングされる中、本当に中立的な報道があり得るのか。半世紀続いた国民党政権時代を振り返れば、疑問や不安が残る部分でもある。(深川耕治=08年4月1日記)



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