中国企画記事 特選

2007年8月30日記

砂漠化、黄砂被害に打つ手なし−中国内蒙古自治区

 成立六十周年を迎えた内蒙古自治区では八月、胡錦涛国家主席や曽慶紅国家副主席ら党最高幹部らが次々と訪れ、自治区の発展ぶりを高く評価した。北京五輪を一年後に控え、黄砂や砂漠化問題が北京の気候と直結するため、環境対策にも力を入れるが、干害は深刻化し、放牧禁止による農耕地開発は根本的な環境問題改善につながっていない。
(中国内蒙古自治区烏蘭察布市・深川耕治、写真も=07年8月30日記)


干害続き、風力発電のみ利点に

草原の遊牧禁止と農地開発、逆効果に

picture 内蒙古自治区は風力発電設備容量が全国トップで、北京などに送電している

 北京から西へ汽車で約八時間で山西省北部の大同市に到着する。大同市の北部は黄土丘陵。山には樹木がなく、山腹や丘陵の急斜面まで段々畑が切り開かれて干害と洪水が交互に押し寄せ、住民の苦悩は自然災害との闘いそのものだ。

 大同から車で五時間かけて内蒙古自治区烏蘭察布市郊外に入ると、砂塵(さじん)舞い上がる砂漠を通過し、果てしなく続く大草原が続く。草原には放牧された馬や牛、羊が草をはむ牧歌的な風景が広がり、日本の阿蘇よりもはるかに雄大な風景に圧倒される。しかし、蒙古族が住むパオ(移動式住居)の集落近くに行くと、湖が枯れて一滴の水もないことが外部から来た者にとっては異様に見えた。

 「夏でも枯れたことがなかった湖がここ数年、干害で枯れ果てている。夏場は雨が降らず、草原の一部は遊牧禁止になって逆に砂漠化が深刻になっている」。蒙古族の烏日罕さん(27)は実情に合わない緑化政策と異常気象が続いていることを不安そうに吐露した。

 内蒙古自治区は中国内でも最も砂漠化、荒地化が集中し、被害が深刻化。北京や天津などの生態にも脅威を与え、砂漠化防止対策が二〇〇〇年以降、本格化している。

 同自治区内では草原を遊牧禁止にするエリアを増やし、農耕地を転換する動きが加速化している。砂漠化防止の一環として行っているものだが、草原の表土は十センチ前後しかなく、その下は砂漠。耕地化しようとしても数年後には砂漠化して悪循環を繰り返す。

 自治区政府は「地元の実情に基づいて緑化を推進し、砂漠対策実施地域の植生カバー率は平均50%以上に達した」「生態系整備の速度は砂漠化速度を上回り、一部地域の生態環境が好転し始めている」と豪語する。しかし緑化が一時的に進んでいるように見えても草原の耕地化が一時的なもので砂漠化が進むケースもあり、土質の悪化が黄砂被害拡大へつながっているのが実情だ。

 実際、同自治区が生態系整備への取り組みを強化した〇〇年以降、内蒙古自治区が発生源と見られる黄砂現象は、はるか南方の上海でも呼吸疾患を引き起こす重度汚染を伴って確認されるようになっている。近年では日本の福岡近郊などでも黄砂が見られ、春に行われる小中学校の運動会が中止になるケースまで出てきているほどだ。

 一方で高原特有の地の利もある。同自治区内の草原には、至る所に風力発電施設が林立する。標高二千メートル前後で草原を吹き抜ける風が強く、黄砂が中国だけでなく韓国や日本にも押し寄せるほどの勢いだけに風力発電は北京など首都近郊に送電されている。
picture 夏でも豊かな水を誇っていた内蒙古の湖もここ数年、干害で一滴の水もない
picture パオ(移動式住居)の前で歓談する蒙古族の若者たち

 一九九〇年代から中央政府が推進する新エネルギー優遇政策を活用し、米独などの大型風力発電ユニットを導入。国内最多の風力発電施設を持つほどに発展した。ほかにも太陽光発電など新エネルギー事業を通して自治区内で十五万世帯が電気のある生活恩恵に浴しているが、電気普及の恩恵にあずかるのは一部住民にすぎない。

 記者が訪れた大唐国際卓資風力発電所の周辺は五十三基の風力発電機があり、インドの風力発電機メーカー・スズロン社と技術提携し、国産化率七割のレベルまで風力発電を開発していた。今年から始まった第二期計画で新たに五万キロワットの設備容量が創出される予定だ。

 また、同自治区は石炭埋蔵量が全国トップで〇七年六月現在、確認された埋蔵量は約六千五百八十三億トン。全体の約四割に当たり、エネルギー資源が豊富だ。同自治区トップの儲波党委書記は「昨年六月、温家宝首相が現地視察し、炭鉱に先進の大型機械を導入することで採掘現場での死亡率を下げる指示が出され、全国でも死亡率が最も低いレベルに抑えられている」と話している。

 内蒙古自治区は一九四七年五月一日、クランホトで正式成立し、中国発の省クラス民族自治区として誕生した。成立六十周年を迎えた現在、同自治区は同じ蒙古族が建国したモンゴル国と隣接しているため、大幅な自治を容認してモンゴル民族の合併阻止に神経を使い続けている。

 分裂をもたらしたチベットと対照的に少数民族優遇策を通して非漢族の「漢化」受容が比較的スムーズに進んだ。自治区内の蒙古族は全体の約二割となった。改革開放以降、とくに西部大開発の重要な拠点として国家プロジェクトによる振興が進んだ。しかし、蒙古族の旧世代には、民族の伝統や文化が徐々に失われていく「漢化」への反発も根強いといわれる。モンゴル国内での反中感情が依然として強いことも懸念材料だ。

 政府としては来年の北京五輪を「環境五輪」にするために、同自治区の砂漠化改善による黄砂対策は至上命題だ。少数民族政策のモデル自治区を目指したいところだが、自治区の性急な緑化、耕地化は今のところ、確実な成果を上げているとは言い難い。