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2012年2月3日記


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地方自治、遠い船出 広東省烏坎村
政府妥協、土地問題進展せず

ようやく村民選挙 不信収まらぬ村民

 
中国広東省東部にある半農半漁の村、陸豊市郊外の烏坎(うかん)村は、土地利権を専横した地元幹部に抗議する村民らが自主選挙による自治組織を結成して昨秋から激しい抗議デモを展開し、国内外で注目された。広東省政府は最終的に同村党支部幹部選挙のやり直しや腐敗調査を約束したが、不正買収された土地返却は遅々として進まず、事件沈静化と風化を目論む広東省政府に村民の不満といらだちが募っている。(深川耕治=2012年2月3日記)

抗議リーダーの死因なお不明
土地返却も遅々として進まず
政治改革なお道険しく
2月1日に行われた烏坎村の村民委員会役員候補者選挙。表を何度も集計して確認している
 2月1日、烏坎村では約40年ぶりに村民委員会の役員候補者を選ぶ選挙が18歳以上の村民一人一票の投票制で実施された。

 これは3月1日に村民投票によって選出される村民委員会選挙を実施する準備のために行ったものだ。投票率は85%で村民6242人が投票。役員候補は村民の署名を50人以上集めた35人のうち高票数順の11人が3月1日の選挙候補者として選出された。

 選挙権のある村民が衝立(ついたて)のある場所で投票用紙に記入し、高さ1メートルの位置にある投票箱に投票する公正で民主的な投票をアピール。その様子は香港のテレビ各局でも報じられた。

 烏坎村は、同村共産党支部書記だった薛昌氏(91)が1969年から昨夏まで41年にわたって自動当選し続け、同村党支部副書記も薛昌氏の親族で固めて牛耳ってきた。正常な役員候補選出ができず、村幹部は不動産業者と結託して村の農地を不正売買。貧富の格差は広がる一方、出稼ぎしながら生計を立ててきた農民は失地農民となり、怒りは沸点に達した。

 地方政府の専横と腐敗を象徴するような事態は昨年9月と11月、村幹部の汚職に怒った住民ら約3千人が村を管轄する陸豊市政府に抗議デモを展開し、管轄する陸豊市政府が抗議する村民を兵糧攻め状態にしていることが内外メディアで頻繁に報じられるようになると、党中央も無視できない事態に発展。広東省政府も同省トップの汪洋党委書記の鶴の一声で選挙のやり直しを指示し、ようやく事態収拾を図るようになった。

死亡した薛錦波さんの長女、薛健婉さん
 地方政府の不正、腐敗に抗議するデモは中国各地で頻発しているが、従来は武装警官や軍を投入して強権的に封じ込め、汚職が発覚した幹部は蜥蜴(とかげ)のしっぽ切りのように処分する堂々巡りが続いている。烏坎村事件は従来の失望感に風穴を開けた点では画期的といえるが、先行きが楽観できるような事態ではない。

 村民らは、強権による封じ込めに対抗するため、9月のデモ後、自治組織「臨時理事会」を結成して村幹部の横暴を上申したが、直後に市当局から非合法組織と判断された。昨年11月、リーダー格5人が逮捕・連行され、リーダーの1人である薛錦波氏(当時43)が昨年12月11日、取り調べ中に死亡。遺体は遺族に戻されず、遺族の話では体中に拷問されたような傷が残っていた。

 事態は薛さんの死亡で流れが大きく変わる。村民は村の入り口を封鎖して市当局と十日間にらみ合った後、広東省政府は村支部幹部選挙のやり直しや専門チーム派遣による腐敗調査などを約束。広東省の調査チームは先月15日、汚職容疑で更迭されていた村のトップである薛昌党支部書記の後任として村の抗議デモをまとめていた穏健な林祖鑾氏(65)を任命し、事件の幕は閉じたかに見えた。

2月1日、投票手続きをする烏坎村の村民たち
 今回の烏坎村事件では、抗議デモを主導したリーダーたちが、あくまで「中国共産党を熱烈擁護、党中央熱烈支持」との横断幕を掲げながら反政府デモではないことを一貫して強調し、村の不正腐敗を党中央が一掃・刷新するための陳情デモであることを訴え続けたことに特徴がある。国内ネットで支持を集め、内外メディアを味方につけ、広東省政府が話し合いに応じて選挙のやり直しと土地不正売買の調査を取りつけたことは大きな前進ではある。ただ、烏坎村事件は中国の閉鎖的な地方自治を改革する序章の始まりに過ぎない。

 1日、烏坎村で40年ぶりに行われた村民委員会の役員候補者を選ぶ民主的な選挙では、村の党支部書記に任命された林祖鑾氏がまさかの落選。無名だった大工の張水妹氏が穏健派との支持を受け、2069票を獲得してトップ当選するなど波乱含みとなっている。

 事件解決のために広東省の調査チームが現地に入り、調査しているが、土地売却問題も、薛錦波氏の死因問題についても現時点では進展がない。死亡した薛さんの長女、薛健婉さんは「父の死因は市当局は心臓病の一点張り。林祖鑾さんが村の代表になっても真の死因は報告されないだろう」(香港紙「りんご日報」)と失望を隠せない。

 広東省政府としては、烏坎村で民主的な選挙が実施されていることを内外メディアが喧伝することで政府の対応が変わったことを印象づけるだけに終わり、事件の本質は曖昧なまま等閑(なおざり)となれば、決して村民の勝利には結びつかない結末にもなりかねない状況が続いている。