中国企画記事 特選

2004年8月25日記

世界遺産新登録に沸く瀋陽 中国遼寧省
「オランダ村」休止から盛り返す
掃除婦のクリーン作戦奏功、客引きや乞食もなく
 六月末から七月初めにかけて江蘇省蘇州市で開かれた国連教育科学文化機関(ユネスコ)の第二十八回世界遺産委員会で中国は新たに吉林省集安市の「高句麗王城・王陵・貴族墓」と遼寧省瀋陽にある清王朝の故宮を世界遺産に新規登録した。とくに瀋陽は「一宮二陵」(瀋陽故宮、清昭陵、清福陵)が予定通り登録されたことで観光振興の新たな起爆剤として期待されており、世界遺産への管理に関してもマナー優先のサービスに力を入れている。(04年8月25日記=中国遼寧省瀋陽で、深川耕治、写真も)

 「今回の申請登録が成功したのは、(薄熙来)前省長の長期的戦略と瀋陽市長の準備の賜物(たまもの)です」――。瀋陽の旅行会社に勤務する呂さんは今回、瀋陽の「一宮二陵」が世界遺産に登録された背景をこう話す。

 中国系香港紙「大公報」(七月三日付)は、今回の世界遺産登録に瀋陽市内の瀋陽故宮(写真右)、昭陵、福陵、永陵、五女山の五カ所すべてが申請通り認定されたことについて「瀋陽こそ最大の勝者」との見出しで、北京に次ぐ国内第二の世界遺産登録数となった瀋陽が文化戦略上、きわめて優位に立つ先見の明があったことを賞賛している。

 東北三省の政治・経済の中心である人口七百二十万人の遼寧省都・瀋陽といえば、二〇〇二年五月に起きた日本総領事館への北朝鮮籍住民五人の駆け込み連行事件や〇三年十月に起きた日本人元商社員誘拐未遂事件など、日本人にとってはマイナスイメージが強く、面子をつぶされた瀋陽市政府は日本総領事館の周囲に鉄格子を強化し、周囲の写真撮影を厳禁にする警戒ぶりが続く。

 中国の大手航空会社、中国南方航空集団傘下の北方航空が運航する定期旅客機が瀋陽−平壌間に六月から就航し、温州商人の北朝鮮への投資に湧く瀋陽は、北朝鮮との貿易関係が密接。北朝鮮の新義州特別行政区の行政長官に任命された後、中国公安当局に逮捕されて詐欺罪などで懲役刑に服役しているオランダ国籍の華人実業家、楊斌氏が経営する花卉(かき)栽培を行う欧亜実業の本社も瀋陽市内にある。

 楊斌氏は逮捕前、瀋陽市郊外にのテーマパーク兼高級住宅街「オランダ村」を建設し、瀋陽市中心部から観光客用の専用バスを走らせ、空前の観光振興ブームが巻き起こした。だが、〇二年十一月、楊氏が詐欺容疑などで瀋陽の捜査当局に逮捕されて以降、オランダ村は営業停止状態。新興テーマパークと好対照の清朝時代の歴史遺産を世界遺産に登録準備することで観光振興の二匹目のドジョウを狙っていた瀋陽市政府は足元をすくわれた形となった。

 「日本や欧米諸国のアドバイスを受け、世界遺産の申請中、周囲の環境整備・保護に細心の注意を払ったことで結果的に観光客の集客アップによる巨大な財源を得ることになった」と苦境をバネにした陳政高・瀋陽市長は文物保護や美観整備のために六億元(七十八億円)を投入。一宮二陵の補修整備や公園整備、周囲に高層建築物を建てることを厳禁とし、国内の観光地で見かけられるしつこい客引きや乞食を徹底的に取り締まり、美観整備のために女性清掃員(写真右)をエリアごとに配備した。一宮二陵の敷地内にある公安分局では通報体制を強化し、ポイ捨てや客引きを即刻取り締まる体制に改善したことが高い評価につながっている。

 中国の世界遺産は今年登録分を含めて三十件。スペイン、イタリアに次ぐ世界第三位で、暫定リスト数を含めると、将来、第一位になる日は近い。だが、中国では観光優先の乱開発や遺跡の荒廃が深刻化し、世界遺産委員会から「(人の管理が悪い)世界文化遺産は終身制ではない」と警告を受けるほどだ。

 具体的には、北京市郊外の頤和(いわ)園近くに高圧線の鉄塔や商業施設が建設されたり、山東省「泰山」や安徽省「黄山」の過度なロープウエイ建設による景観破壊、四川省「九寨溝(きゅうさいごう)」の観光客による環境汚染など、「人治」欠如が浮き彫りになっている。

 瀋陽市政府は内外の批判を考慮し、世界遺産申請に三年間の準備期間を設け、景観保護と美観維持、海外観光客へのマナーを最重視し、他地域とは違う文物管理術を行ったことが奏功、遺産保存時の臭い対策にはまだ課題が残るが、今後の観光業振興に新たな教訓を残しそうだ。(深川耕治、04年8月25日記)
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