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2011年12月16日記


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自治組織創り村民抗争 中国・広東省
幹部腐敗、党中央へSOS
断水停電で村民“兵糧攻め” 地元政府

 中国広東省東部にある農村、陸豊市郊外の烏坎村では土地利権を独占横領した地元幹部に抗議した村民らが弾圧に耐えながら徹底抗戦を続けている。村民らは自主投票で13人の自治代表を選出して地元政府と交渉を重ねたが、当局は「不法組織」と見なして抑え込み、拘束された村民代表が死亡。地元政府の腐敗を党中央に訴求して認めてもらおうとの村民の抗議は結束強化され、長期戦の様相を呈している。(深川耕治=2011年12月16日記)

住民代表拘束、死者も
民意の代表、中央へ声
国内ネット検索、当局遮断


11月21日、約3000人が陸豊市政府庁舎前で座り込みデモ=中国のネット画像より
 広東省東部の陸豊市に属する東海鎮烏坎村は海に近い人口1万3千人の静かな農村だ。陸豊市の名前は1929年、蒋介石の特務機関から捕縛殺害され、毛沢東が「中国農民運動の大王」と賞賛する海陸豊にちなんで付けられた都市名。奇しくも、その陸豊市で地方政府の不正を訴える本格的な農民抗争が展開されている。

 同村は、今夏まで河北省出身の同村共産党支部書記(村支書)・薛昌氏(91)が1969年から41年にわたって97%の高得票率で自動当選し続け、同村党支部副書記も薛昌氏の親族で固め、牛耳ってきた。

 村民によると、薛昌氏に反発する村民は党員資格を与えずに徹底排除し、党組織は身内で固めてきた。とくに1993年以降、同村の農地が外部投資者によって売買され始め、広東省出身の香港企業家・陳文清氏と同村党支部書記の薛昌氏が結託して不動産開発会社を設立。同社の仲介で大手不動産会社の碧桂園グループが同村への開発調査を開始して、農地などを無断で大規模買収するようになった。

9月22日、武装警察と烏坎村民数千人が衝突、多数の負傷者が出た=中国のネット画像より
 村民は土地売却の補償費として二度にわたり、一人当たり総計わずか550元(1元=13円)を受け取っただけ。地元政府は約束通りの補償費は支払わず、村民の大部分は農地を失い、「失地農民」として路頭に迷う生活に陥った。

 9月に入り、村民らは選挙の不正や不正土地利用を止めるように村の共産党支部へ直談判。これまでも再三、党の上部組織や鎮、市、省政府に陳情してきたが、梨のつぶてだった。しかし、9月21日、陸豊市、東海鎮の議会に当たる人民代表大会選挙で薛昌氏は村民が投票を拒否したにもかかわらず、85%の得票率で自動当選したと発表。

 「不正選挙だ」と主張する村民の怒りを増幅させ、同22日に武装警察と村民数千人が衝突し、双方に多数の負傷者が出て村民4人が拘束された。

 同日の衝突事件後、香港のテレビ局TVBが現地取材した際、数十人の村民らは取材陣に対してひざまずき、「外部メディアが事件の真相を正確に報道して理解者を増やしてほしい。北京の指導者に声が伝わってほしい」と懇願。地元の民意を党中央に届かせるあらゆる手段を使って改善を求めている。

デモには烏坎村の少年らも参加。村民が総勢で共産党支部書記の横暴に民主的に抗議し続けた=中国のネット画像より
 地方政府のあり方に失望した村民らは、9月24日、村の47ある血縁グループを代表する117人で自主投票を行い、13人の「民意の代表」となる男性理事を選出。「村民臨時代表理事会」を結成し、党幹部の横暴を上申。理事会は村民の意見や要望を聴取し、定期的に召集する「全民大会」で今後の方針を決め、デモや交渉を続けている。

 11月21日には約3000人が陸豊市政府庁舎前で座り込みデモを行い、全民大会で結成を決めた村民による治安維持隊140人がデモの暴徒化を防ぐ監視役となって警官隊との衝突回避にも一役買った。

 市側は、ついに村民側の要求を部分的に認め、書記と副書記を免職処分にして村の党幹部を公正な選挙で選出し直す決定をした。同時に、「境外勢力の煽動を受けている」と指摘し、12月9日には「村民臨時代表理事会は不法組織」と断じて取り締まりを強化。翌日から村政府の弾圧が始まり、村内は武装警察が取り囲んだ上、断水停電状態を強いられた。ネットも通じず、抗議する村民は“兵糧攻め”による情報鎖国状態となっている。

公安当局に拘束後、撲殺された可能性が濃厚な薛錦波氏
 村民らによると、12月8日には地元公安当局は理事会メンバーである同副会長の薛錦波氏(43)ら5人の身柄を拘束、12月11日には薛氏の死亡が市側から一方的に通告されてきた。死因は「心因性の突然死」とされているが、撲殺の可能性が濃厚だ。現地では拘束されたメンバーの一人、曽昭亮氏(42)の死亡情報も流れ始めている。

 村民によると、薛氏の妻と二女は遺体と対面した際、歯が何本も折れて爪が剥がされ、背中は棍棒のようなもので叩かれた傷跡が残っていたことを確認したが、写真撮影も携帯電話の使用も認められず、遺体の引き取りも許可されなかった。薛氏の次女(21)は「父には心臓病の病歴など一切ない」と話している。

 しかも、遺体を安置している汕尾市政府は遺族に対して遺体引き取りに一千万元の賠償金を要求したが、遺族は拒否したという。

 訃報を受け、12月13日には村中心部の村役場で数千人が参加する異例の追悼決起集会が開かれ、15日、前日に続き、村民8000人(村民側発表)が「汚職幹部打倒」「農地を返せ」「血は血で償え」などのシュプレヒコールを上げながらデモ行進。村民代表の一人は香港メディアの取材に対し、「地元政府は薛錦波さんの死因を納得いくように説明し、拘束した他の4人を即時釈放してほしい」と語り、抗議の声は収まりそうにない。

12月13日、薛錦波氏の死亡通告を受け、烏坎村役場で数千人が参加する異例の追悼決起集会が行われた=中国のネット画像より
 村民代表が地元政府に抗議して拘束された後、死亡した例は2010年12月、浙江省楽清市蒲岐村の前村長・銭雲会氏が三度の拘束後、交通事故死で処理されたケースが有名。村民側が事実調査を再三要求し、加害者が逮捕されて懲役3年半の実刑判決を受けている。

 2000年代に入り、不動産バブルが続いた中国は地方政府が開発業者と結託して不正な不動産取引で暴利をむさぼり、当局や個人の収入源とする汚職が相次ぎ、党も厳しい処分を強調している。改革開放の象徴である広東省内で今なお汚職告発を恐れる当局が住民を弾圧する例が絶えないことを象徴し、中国各地で起こりえる縮図のような事件と言えるだろう。