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2010年11月22日記


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鴨緑江の中州、自由貿易区へ 威化島・黄金坪島
北朝鮮が中国に租借打診
中国が本格調査、検討始まる


 
今年、異例ともいえる2度の訪中を果たした北朝鮮の金正日総書記は、訪中の度に中国・丹東と鴨緑江を隔てて接する新義州側の中州2エリア(威化島と黄金坪島)を自由貿易区として中国側に租借させる新たな中朝国境貿易構想を繰り返し打診。後継者である三男・金正恩氏への支持を取り付けた返礼の意味を持たせつつ、中国側がようやく本格調査に乗り出す段階に来ている。(深川耕治=2010年11月22日記)

“北朝鮮版香港”遠い道程
中朝国境貿易に新展開も
北が後継者支持取り付け、したたか返礼外交


 金正日総書記は今年に入り、5月3〜7日と8月26〜30日の二回訪中。韓国の聯合通信は訪中前の2月23日、北朝鮮領である新義州の威化島と黄金坪島を自由貿易区として中国側2企業に50年間租借させ、投資額は威化島が3億米ドル、黄金坪島5億ドルと報じていた。

 中国側は同構想を「中朝間の正常な貿易」(中国外務省)と認めたが、具体的に進展できるかどうかは同時点では不透明で信憑性を欠いていた。

懲役18年の実刑判決を受けて服役中の新義州特別行政区初代長官の楊斌受刑者
 中国遼寧省丹東市と鴨緑江で隔てる北朝鮮新義州は金正日総書記が絶大な信頼を置いていたオランダ籍中国人の楊斌(ようぶ)欧亜集団総裁が2002年、新義州特別行政区初代長官に抜擢されながらも贈収賄と脱税容疑で同年、中国当局から逮捕された。翌年に懲役18年の実刑判決を受け、新義州特別行政区の事業が宙に浮いたまま白紙化された経緯がある。楊氏を重刑に処したのは、新義州特区の立ち上げ経緯に対する中国側の反発が色濃いとされる。

 また、中ロとの国境貿易港として海外資本に開かれた特区「羅先経済貿易地帯」を擁する北朝鮮北東部の羅先特別市は中国に60年間の港湾租借権を付与しているが、カジノ賭博問題で中国人観光客が一時入境禁止となるなど曲折もあり、中国側は以前ほど積極投資していないことも懸念材料だ。

 自由貿易区として北朝鮮が新たに提案する威化島と黄金坪島は、中朝国境を分ける鴨緑江の下流に浮かぶ中州。遼寧省丹東市と接しており、中朝貿易の地の利は抜群だ。

 威化島は12.2平方キロメートルを占める鴨緑江最大の島。高麗の遼東討伐軍を率いた李成桂が1388年、遠征途中に威化島から軍を引き返した「威化島回軍」で有名な場所だ。農水産物や畜産物の流通や観光地としての利点がある。

 新義州屈指の穀倉地帯である黄金坪島は農産物の生産・加工が利点で鴨緑江第二の島(11.45平方キロメートル)。丹東とは土の堆積で陸続きになっているので中朝貿易の新流通インフラは造りやすい。

2010年8月19日から21日にかけての大雨で鴨緑江の水害被害が拡大した北朝鮮の新義州側の中州。自由貿易区建設には水害被害対策が急務だ
 羅先特別市の租借形式と違う点は、租借年数を提案当初の50年から100年に引き延ばし、中国在住の外国人に対してビザ(査証)を免除していることだ。

 ただし、今年8月の鴨緑江流域での集中豪雨で威化島や黄金坪島など中州の島々は大半が水没したり、深刻な洪水被害を受けており、水害リスクは避けられない。中国式の改革開放に決して乗り出さない北朝鮮が2島の中国への租借でリスク回避する体制温存のしたたかな思惑に中国がどう対応するか注目されるところだ。

 中朝貿易で中国が輸出する商品の約6割が丹東税関を経由。輸送は従来、中朝友誼大橋による陸上輸送だったが、輸送量が限定されるため、昨年10月、中国の温家宝首相訪朝時、鴨緑江道路大橋の建設を中国側の投資で行うことで合意し、今年10月には18億元(225億円)をかけて着工している。

2010年8月19日から21日にかけての大雨で鴨緑江の水害被害が拡大した中国遼寧省丹東。向こう側に見える橋は北朝鮮新義州に続く中朝友誼大橋
 新義州の2島での自由貿易区構想が浮上したのは、09年1月23日、訪朝した中国共産党の王家瑞対外連絡部長に金正日総書記が打診したのが最初。当初、租借期限は50年としていた。王部長は当時、自由貿易区に関して意思表示していない。同年10月、中国の温首相が訪朝した際も金総書記が再度、打診。中国側は自国が全面投資する鴨緑江道路大橋の建設に関しては北朝鮮と意見が一致したが、自由貿易区に関しては明確な回答を避けた。

 しびれを切らした北朝鮮側は今年10月に入り、「50年間の租借期間が短いならば80年、100年にしても良い」と中国側に再打診。深刻な国内経済を中国式の改革開放とは違う外貨獲得手法で成功させたい意図があり、金日成主席生誕100年にあたる2012年を強盛大国元年と位置づけ、中朝関係強化の新たなシンボルにしたい狙いがある。

北朝鮮が中国に60年間租借させた羅先特別市にある天然の良港・羅津港
 中国としては羅先ほど外資導入を見込めにくい点や新義州特区の立ち上げ混乱への不信感が根強く、躊躇(ちゅうちょ)している。北朝鮮との関係が深い東北三省で進む国家プロジェクト「東北工程」の一貫として、2011年からの5カ年計画である長吉図開発開放先導区に加えて含めるのは厳しい状況だ。鴨緑江道路大橋の建設は含まれているが、中国側は同自由貿易区構想に、ようやく重い腰を上げ、慎重な検討段階に入っている。

 中国政府から同自由貿易区構想についてリサーチを委託されたのは中国国際工程諮問公司。国務院国有資産監督管理委員会が管轄するコンサルタント会社で設立以来、南水北調、三峡ダム、国家博物館、宇宙開発など数々の大規模プロジェクトを手がけてきており、建設事業のリサーチやコンサルタントを行っている。中国政府肝いりの信用度が厚い同公司の最終判断が自由貿易区構想に中国が参画するかどうかを決めることになりそうだ。

 一方、地元の丹東市は積極的だ。10月下旬、丹東市トップの戴玉林丹東市委書記を団長とする丹東代表団が訪朝し、金永日朝鮮労働党国際部長や李学成新義州市責任書記らと会談。北朝鮮側は鴨緑江道路大橋の建設や威化島と黄金坪島の自由貿易区構想について積極推進できるよう意欲的に表明、韓国メディアは自由貿易区の租借期間を50年から100年に引き延ばしたことについて「北朝鮮版香港にしようとしている」と報道し、丹東市政府も同報道について「流言飛語ではなく、好意的推測」(香港誌「亜洲週刊」)と反応しており、慎重姿勢を貫く中央政府との温度差がある。