深川耕治=2008年12月5日記

中国メディア批評 独自コラム



 連載 変わりゆく香港「一国二制度」10年の実験
 激戦・台湾総統選2004
 ルポ コピー天国・中国


「炎黄春秋」の趙紫陽報道、社長引責騒ぎに 中国
天安門事件20周年へ神経尖らす
不正告発で首相動かす例も


 中国は今月、改革開放路線スタートから30周年を迎え、来年10月には建国60周年を盛大に祝う。その一方、世界的な金融危機による景気低迷は沿海部で続く出稼ぎ農民の大量解雇、各地で頻発するタクシー運転手の待遇改善を求めるスト、暴動で社会不安は確実に高まっており、来年6月は天安門事件20周年に直面する政治的に敏感な時期に突入する。

 政治改革への積極論調で知られる中国誌「炎黄春秋」9月号(写真左)では新華社四川分社の元社長、孫振氏が「文革後期の私と四川省党委書記との交流」と題して四川省トップに就任した当時の趙紫陽元総書記を地方指導者として高く評価する記事を掲載、管轄している文化省から同誌社長や副社長、編集幹部に解任圧力がかけられている。

 記事は孫振氏が1976年の文化大革命時代、四川省トップに就任していた趙紫陽氏に随行して農村を視察した際、趙氏が党からの送迎を断り、自分の足で農民と交流して独自の農村政策を打ち出した経緯を約7000字で綴ったもの。「食料を得るには紫陽(趙紫陽氏)に相談せよ」との地元の民謡が広がるほど評価が高かったと讃えている。現政権が進める「親民路線」の原型とも言える指導者像だ。

 趙氏が天安門事件で総書記ポストを解任されて失脚降、05年1月に死亡して現在に至るまで、中国メディアで真正面から趙氏の指導者像を本格的に書き込んで紹介したのはこれが初めて。趙紫陽の生前業績を報道することは天安門事件の再評価につながりかねず、タブーだったからだ。
 香港各誌によると、同記事掲載で猛反発した党長老の一人が党中央宣伝部に圧力をかけ、同誌を管轄している文化省が同誌社長、副社長、編集幹部を含む経営陣の人事刷新を要求してきているという。

 「炎黄春秋」は故・蕭克元国防次官ら党長老が中華炎黄文化研究会を立ち上げ、1991年に月刊誌として創刊。現在まで政府からの資金援助は一切なく、広告収入にも依存せず、部数売り上げだけで存続してきた。創刊時、約4万部の発行部数は着実に知識人の読者層を広げ、現在は8万部を超える。緩やかな政治改革を堂々と論評できる数少ない時事月刊誌として保守派から度々やり玉に挙げられ、何度も圧力を受けてきた。だが、独立採算で当局からの援助・依存が一切ないため、管轄の文化省も人事問題まで直接干渉できない立場だ。

 一党独裁の問題点を熟知した同誌の杜導正社長(写真右)は85歳。新華社を経て羊城晩報、光明日報の編集長を歴任した改革派メディア人として知られる。元新華社高級記者で副社長の楊継縄氏も毛沢東の「大躍進」時代、農民数千万人が人災の側面から餓死した実態を香港で「墓碑」(天地図書・上下本)(写真左下)として出版し、当時からの党幹部の腐敗をえぐって健筆を振るっている。

 党長老の圧力と同誌との板挟みに苦しむ文化省は杜社長に対し、高齢を理由に引退を促しているとされるが、楊継縄副社長は「80歳を過ぎても杜社長の体力は60歳。思想年齢は40歳」と笑い飛ばし、杜社長も「中国の政治体制改革は後退は許されない。確実に一歩一歩前進あるのみ」と圧力に屈する様子はない。

 同誌のように党中央から直接お咎めを受けにくいケースはきわめて稀だ。内モンゴル自治区の経済紙「財経時報」は7月11日、中国農業銀行湖南省常徳支店が不良債権を資産管理会社に売却したかのように見せかけ、経済損失を隠匿したとスクープ報道。しかし、同自治区新聞出版局は「報道は不適当」と3ヶ月間の停刊処分を下し、100人余の記者が全員解雇された。

 新華社傘下の週刊誌「瞭望東方週刊」(8月28日号)は山西省内の鉱山で発生した土砂崩れ事故で当初死者11人と報じられながら実際は41人に上っている隠蔽をすっぱ抜いた。地元政府は猛烈に圧力をかけたが、報じた記者がブログ上で不正行為を暴露。温家宝首相が閲覧し、徹底調査が行われて孟学農山西省長を辞任に追い込んだ。

 11月18日、台北で世界中文報業協会創立40周年となる年次会合が行われ、中国、香港、台湾などのメディア関係者が集った。討論を交わした際、「ここ1年、中国大陸ではチベット問題、新彊ウイグル問題、北京五輪の聖火リレー問題などが立て続けに起こり、新興ネットメディアの情報発信が旧来型の伝統メディアに多大な圧力をかけている」(徐●北京大学新聞伝播学院教授)との中国ネット環境激変が旧来メディアの生き残りに脅威を与えていることが改めて強調された。

 記者側が泣き寝入りをするケースが大半を占める中、「炎黄春秋」も同誌も言論統制に真っ向から立ち向かう記者魂は、中国ネット環境の激変に伴う一縷の希望の光をもたらしている。(深川耕治=08年12月5日記)

●=サンズイに弘