中国企画記事 特選

2006年10月19日記

香港誌「前哨」の劉達文編集長に聞く
汚職摘発で「脱江沢民」鮮明に/胡総書記の権力基盤を強化
江時代の汚職清算、人事に影響
江派の回副首相、昇進望めず
軍の汚職蔓延、台湾有事なし
五輪成功は人権、環境問題次第

 上海市トップの陳良宇上海市党委員会書記が汚職事件で解任され、胡錦濤政権は江沢民国家主席に連なる上海閥の政治力を弱め、人事を通して権力基盤を強化しつつある。今後の党指導部人事や中国軍の汚職問題、北京五輪の課題、台湾問題などについて香港の月刊政治専門誌「前哨」、劉達文編集長に聞いた。(香港・深川耕治、写真も 2006年10月19日記)


――来秋の第十七回党大会で政治局常務委員会はどのように変わるか。
 「多様な見方が出ている。八日から十一日まで行われた第十六期中央委員会第六回総会(六中総会)で次期党大会に向けた地方幹部の人事が決まる。この人事だけでは政治局常務委員会の人事動向ははっきりわからない。実際は党大会自体で決まることだ。陳良宇上海市書記が失脚したことで江沢民派の動きがどうなるかが重要な鍵となる。とくに回良玉副首相(62)は副首相クラスで年齢が最も若く、江沢民派で温家宝首相を支える立場だが、ポスト温家宝として準備されていたが陳良宇氏失脚で不可能になった。最近、上海、北京、天津で胡錦濤−温家宝体制では反腐敗運動を盛んに行っている。上海、北京、天津のトップは順当に行けば当然、政治局常務委員に入っていけるわけだが、反腐敗キャンペーンでそれが困難になってきている」

――回良玉副首相が江蘇省党委書記時代に起こした汚職問題が浮き彫りになっていることを「前哨」でも特集しているが、回副首相は次期政治局常務委員に就任できる見込みはあるのか。
 「陳良宇上海市書記の解任でも分かるとおり、回良玉副首相もやり玉に挙がっているので無理だろう。回良玉副首相の周辺、とくに江蘇省では芋づる式に汚職問題が浮き彫りになりつつる。反汚職キャンペーンは脱江沢民をめざす胡錦濤政権の人事を行う布石とみるべきだ。かりに汚職を行った経歴がある幹部でも政治局常務委員入りすれば、過去の汚職のことは問われないが、江沢民派である回副首相は政治局常務委入りの芽はなくなった」

――江沢民氏の権力は以前よりも確実に衰退してきていると見てよいか。
 「まだ、権力中枢、とくに軍部での政治力は残っている。陳希同元北京市党委書記の逮捕による失脚、毛沢東時代の林彪の失脚のような決定的なものがなければ完全な衰退はない」

――ポスト胡錦濤となる中国のニューリーダーはだれになると予想するか。
 「まず、来秋の第十七回党大会で政治局常務委員に新たにだれがなるかを見極めなければならない。その候補としては、胡錦濤総書記の派閥である李克強遼寧省党委書記と李源潮江蘇省党委書記、曽慶紅国家副主席の派閥である張徳江広東省党委書記などが挙げられる。張高麗山東省党委書記も可能性がある。張徳江広東省党委書記の場合、曽国家副主席が残留して安泰ならばそのまま順当に政治局常務委員に上がる。黄鎮東重慶市党委書記も財務関係が強いので国務院(政府)でポスト温家宝となる重要ポストに就くだろう」

――第十七回党大会で政治局常務委メンバーから引退するのはだれと見るか。
 「年齢的に見ても、江沢民派の黄菊副首相、賈慶林政治協商会議主席の二人は確実だろう。羅幹中央政法委員会書記、呉官正中央規律検査委員会書記も年齢的に引退。曽慶紅国家副主席は胡錦濤総書記との良好な関係を保ち、残るだろう。今年末から来年前半まで全国で十七万人の官僚が人事異動になるが、江沢民時代の官僚制度の腐敗が悪化している。現在、揶揄(やゆ)されているのは『走る官僚(より上の高級官僚に取り入って出世を狙う人)』と『買う官僚(地位を裏金で買収する人)』の二種類。地方政府には北京駐在事務所があり、そこが北京の官僚と癒着する一つの汚職の巣窟になっている。第十七回党大会を前に北京駐在事務所を中心にいろんな形で汚職摘発が進み、人事に大きく影響するだろう。広東省の場合も、張徳江広東省党委書記が他の汚職摘発に巻き込まれる可能性もあるし、無難に切り抜ける可能性もある。汚職の火種は絶えない」

――曽慶紅国家副主席が全国政治協商会議(政協)主席になるとの観測も出ているが、どう見るか。
 「政協主席は花瓶のような肩書きだけのポストに近い。すでに本人は政協主席の上のランクのポストに就任しているので、もし、同ポストになるとすれば、呉邦国全人代常務委員長の可能性がある。呉邦国全人代常務委員長の場合、上海市出身というだけで上海閥と見られているが、江沢民前総書記とは一定の距離を置いており、むしろ、朱鎔基前首相の下で働いていた人物だからだ。むしろ注目されるのは、王兆国政協副主席だ。以前、トウ小平氏に高評価されて胡錦濤氏よりも前に共産主義青年団第一書記に抜擢され、胡錦濤総書記や温家宝首相よりも上のポストだった時期もあり、昇進するだろう」

――〇八年の北京五輪は成功裏に行われると予想できるか。
 「劉志華北京市副市長が汚職で逮捕されているが、ハード面では実施可能だろう。北京五輪には三つの問題がある。第一は環境問題。とくに水質汚濁と大気汚染問題は北京で深刻化している。第二は台湾問題で、これも不安定要因だ。バンコクで八月二十六日に行われた国際青少年スポーツ大会の水泳大会で台北市の二選手が優勝し、中華民国旗である青天白日満地紅旗を肩にかけて表彰式に臨んだが、中国大陸出身の選手がこれに反発して同旗を奪い去った事件が発生した。こんなことを中国選手が行うことが中台関係を感情的に断絶させ、かえって逆効果であることを中国側は分かっていない。第三は人権問題だ。北京五輪が近づけば中国各地で人権問題で民主化を望む者たちが弾圧の実情を訴えて当局がそれを封殺する動きが激化する。とくに法輪功メンバーが過去の弾圧に抗議する大がかりなデモを起こす可能性があり、当局が徹底弾圧すれば、その実情を欧米メディアが報道し、中国では人権問題がいまだに解決されていない印象が強まっていくため、北京五輪のマイナスイメージが広がる」

――〇八年三月の台湾総統選、八月の北京五輪開幕前後で台湾への武力侵攻はあり得ないか。
 「軍の腐敗問題、北京五輪を国威発揚として是が非でも成功させたい中国にとって可能性はきわめて小さい」

――台湾の政局が悪化しているが、どう見るか。
 「陳水扁総統周辺の汚職スキャンダルで台湾内が陳総統辞任支持派と陳総統擁護派に分かれて決着がつきそうにない。陳総統は在職任期満了まで何が何でも押し通してやっていくだろう。呂秀蓮副総統と李登輝前総統が協力関係を結んで陳総統辞任による呂秀蓮総統誕生の動きも可能性としてあるが、台湾軍内でクーデターでも起きない限り実現できない。来年末の立法委員(国会議員)選挙に向けて民進党と台湾団結聯盟が合併することも現実的に難しく、このままならば民進党の次期総統候補は蘇貞昌行政院長が最有力で、〇八年の総統選は馬英九国民党主席と蘇貞昌氏の一騎打ち。現状のままならば馬英九氏が有利だが、たとえ馬氏が当選しても中台関係が大きく変化することはない」

――最近の中国人民解放軍の動きをどう見るか。ここ数年、軍幹部の汚職が拡大し、深刻化しているが、原因は何か。
 「各部隊で不動産を行う部隊や貿易を行う部隊もある。自分たちでビジネスをしている。中国共産党の生産活動によって軍の経費を賄うというのは、党の伝統だった。中華民国政府が樹立して国民党政権下、中国共産党が延安に隠れていた時代はアヘンを栽培、生産して国民党軍の勢力下で販売して経費をまかなっていた。解放以降は、軍が生産活動してはいけないことになったが、トウ小平時代に復活し始め、軍が商売を行うことが平然と行われるようになった」

――江沢民時代、朱鎔基首相が軍のビジネス活動を厳しく規制しようとしたが、結局、効果がなかったということか。
 「朱鎔基前首相は汚職防止に厳しく、清廉な政治手法だったが、その朱氏でさえ、江沢民氏のお墨付きをもらわない限り、軍の汚職に手を付けることができなかった。結局、朱鎔基前首相はそれだけの権限を与えられなかったので、軍の汚職幹部の摘発ができなかった。江沢民時代、中越戦争に参加したことのある部隊が、有事の時以外、普段は絶対に手を付けてはいけない高射砲などの武器やタイヤを売りさばいていたことが発覚した。軍としては、当分、戦争はないと判断し、有事用の軍事兵器を裏で売りさばくようなことをしていることがこの事件ではっきりした。これは軍汚職を防ぐための監督機関がなかったことが大きい。軍の汚職が深刻化したのは江沢民時代だが、それ以前も胡耀邦時代、軍の汚職が発覚して学生たちの不満が高まり、天安門事件に発展した経緯もある。天安門事件で軍が学生を抑え、軍の天下になり、その後はやりたい放題になってしまった」

――具体的に軍の制服幹部が汚職に関与している確証は。
 「私が軍の高級幹部と直接話した時、本人は江沢民氏が汚職をかばうようなことは絶対にしないと言っていたが、汚職で摘発された程維高・元河北省人民代表大会常務委員会主任が本人の不正を告発した河北省石家庄の元党幹部の郭光允氏に対して八年間の懲役刑で打撃報復した事件を例に挙げると、江沢民氏が汚職幹部を数多く重用していたことをあっさり認めた。打撃報復が刑事犯罪に関わると尋ねると、元来は南京で働いていた役人が江沢民氏の抜擢重用で河北省の小さな都市の党書記に就任した程維高・元河北省人民代表大会常務委員会主任で、息子はカナダに逃亡。程氏の汚職に関する証拠はあらゆる調査ではっきりしていた。中央から汚職摘発の専門チームが河北省にも来て、あまり派手なことはするな、と警告した。河北省石家庄の元党幹部の郭光允氏が匿名の手紙で汚職を告発しようとすると、それが程氏に知られ、八年の投獄生活を送ったが、結局、江沢民さえもかばいきれず、程氏は死刑、その側近四人も極刑になった。汚職で摘発されて死刑になった成克傑全国人民代表大会副委員長(元広西チワン族自治区主席)は江沢民派ではなかった」

――江沢民時代に軍内部の汚職がまん延したのは、台湾侵攻を現実的に本気で行う意志は軍最高幹部クラスにはなかったという裏返しか。
 「軍内部には戦争がないと出世ができない人たちもいる。最近も、海軍副司令員をつとめていた王守業中将(63)が経済犯罪に関与した疑いですでに解任されたばかり。ビジネスで自分のポストを手に入れた軍人だ。江沢民派で軍ビジネスを通じて幹部にのし上がった軍人たちの汚職が発覚する形で、江沢民派の軍幹部の失脚が徐々に進んでいる。軍人には二種類のタイプがあり、一つは軍人として武功をたてて出世しようとする人たちで、もう一つは軍ビジネスで自己収益を図ろうとする人たちだ」

――タイの軍事クーデターのようなケースは中国では発生する可能性はないか。
 「中国軍は二つの指示系統がある。各軍のトップである司令員が指示を出しても、その下にいる党政治委員が許可を出さなければ軍は動かない。相互協力しながらもお互いがけん制し合える軍の指示系統で、反乱軍が生じないように防止する建軍以来の伝統となっている」

――胡錦濤政権は毛沢東路線に対する回帰の動きをしているが、どう見るか。
 「それはあると思う。毛沢東路線に対する大きなこだわりを持っているのは確かだ。胡錦濤が一番活発に活動したのは毛沢東時代に築かれているもの。中国共産党が北京入りして以来、本来あるべき素朴な人民路線から逸脱したことへの反省を抱き、かなりピュアな共産党路線を望んでいる。江沢民から権力を継承し、総書記に就任した直後の二〇〇二年十二月、中国革命の聖地である河北省の西柏坡(せいはくは)を初の地方視察先として訪れたのはその意味合いが強い。一般国民の中にも湖南省周辺では毛沢東を神格化して神棚で祀るようなことをいまだに行っている人たちもごく一部ではいるが、最近の毛沢東回顧ブームは文化大革命の経験のない若者世代に一つの骨董品的な流行となっているに過ぎない。」

トウ=登ヘンにオオザト


【劉 達文(LIU DAWEN)】
 1952年、中国広東省東莞生まれ。東莞華僑中学に学び西洋文学に触れる。1966年、学業を中断、故郷で農業に携わる。10年間の農村生活の間にオリジナルの詩や小説を創作。1978年、恵陽師範科学学校(現・恵州大学)に入学し、中文系(国文科)、マスコミ学科を専攻。1981年1月香港へ移住。同年3月、月刊誌「争鳴」で勤務。香港では散文のほか、中国現代文学を研究。作品の多くは「当代文芸」「星島晩報」「文匯報」「争鳴」「七十年代」「南北極」「開放」「前哨」「特区文学」などで発表された。現在、香港月刊誌「前哨」の編集長。ペンネームは蘇立文、暁沖、羅汝佳など。